Q29★硝子の原料は何ですか?


「ガラス」といっても、用途によってさまざまな種類のガラスがあります。ここでは、特に一般的に用いられている「板ガラス」について、説明します。
「板ガラス」にもいくつか種類がありますが、化学組成の点からみると、ソーダ石灰系ガラス(Na2O-CaO-SiO2系)に属します。代表的な化学組成は、シリカ(SiO2)71〜73wt%、酸化カルシウム(CaO) 9〜10.5wt%、酸化ナトリウム(Na2O) 13〜15wt%、アルミナ(Al2O3) 約 2wt%であり、このほかに、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化カリウムなどを 不純物として1wt%以下含みます。

この様なガラスの製造には、原料として、珪砂、石灰石、苦灰石、長石、ソーダ灰、炭素、ガラス屑、などを用いています。これらの原料を融解し、製板(板状に成形すること)、徐冷、切断し、いわゆる「板ガラス」にします。

このとき、板状に成形する過程にも、種々の方法がありますが、今主流になっているのはフロート法と呼ばれる方法です。フロート法の概略図を下に示します。フロート法では450℃程度に熱して、溶かした金属錫の上に、融解したガラスを流し出します。金属錫は重く、ガラスはこれよりも軽いので、ガラスの融液は金属錫の上に広がります。ちょうど、水の上に油を薄く広げたときのように、ガラスは溶融錫の上に広がり、板状に広がることになります。これをゆっくり冷やして、板ガラスにします。


ガラスの主原料は珪砂(ケイ酸、シリカ、SiO2)、ソーダ灰(Na2O)、石灰(ライム、CaO)ですが、これらのものをどこから手に入れるかについて、もう少し説明します。珪砂(けいさ)には天然珪砂と人造珪砂があります。天然珪砂は海浜または砂丘に堆積した石英の円粒からなる浜砂と花崗岩の風化地域に沈積した粘土質砂層から得られる水洗珪砂があります。また人造珪砂には風化のため組織の置換した砂岩や石英片岩を機械的に粉砕して作られる珪砂があります。優良な珪砂の産地としては、アメリカ東部諸州、ベルギーのMoll、フランスのFontainebleau、イギリスのAylesbury、ベトナムのCam-Ranh、オーストラリアのCapeFlattaryなどがあります。日本の珪砂は粘土分を多量に含んで産出するので、水洗して粘土分を取り除く必要があります。産地としては愛知県瀬戸市陣屋付近、静岡県加茂郡宇久須村付近などが有名です。

Na2O成分は、工業的に生産されている、いわゆるソーダ灰(炭酸ナトリウムNa2CO3)から供給されます。ソーダ灰はいわゆるソルベー法などを用いて工業的に海水から製造されます。

CaO成分は主に天然の石灰石、苦灰石から供給されます。石灰石(ライムストーンと呼ばれます)は主成分がCaCO3で各地に優良な産地があります。苦灰石(ドロマイトと呼ばれます)はCaCO3とMgCO3の複塩で、産地によりCaとMgの比率が異なります。日本では栃木県葛生、岐阜県赤坂などが産地として知られています。

また「板ガラス」の他にも、食器には耐熱ガラスとして知られる「ホウケイ酸ガラス」やクリスタルガラスとして知られる「鉛ガラス」が日常生活ではよく用いられています。「ホウケイ酸ガラス」は化学組成がSiO2−B2O3-Na2O系となり、SiO2やNa2Oの他に、B2O3(酸化ホウ素)が添加されます。代表的な化学組成はSiO2が81wt%、B2O3が13wt%、Na2Oが4wt%、Al2O3が2wt%です。このガラスは、熱膨張係数が小さく、耐熱性に優れているため、直接加熱できる食器や理化学機器(ビーカーやフラスコなど)に用いられます。このガラスを早くから実用化したアメリカの(社)コーニングガラスでは商標としてパイレックスガラスの名前で呼んでいます。

一方、「鉛ガラス」はその名のとおり、40wt%程度の酸化鉛(PbO)を含んでいます。このため、光に対する屈折率の高いガラスに成ります。このような屈折率の高いガラスは、見た目できらきら光るようになります。フランスのバカラ社やチェコのガラスで有名な、いわゆるクリスタルガラスのきらきらと光る特性は、この化学組成によりもたらされています。


(SM) 2003/08/28