Q336★『醤油の泡を消す味噌の成分』の研究をしています。醤油をミキサーで泡立て味噌を近付けると、何もしないで置いておくよりかなり早く泡が消えました。味噌は、麦みそ・米みそ・赤みそ・白みそで実験した結果・・・泡が一番早く消えたのは赤みそでした。醤油以外の泡で調べたところ、赤みそはビール・豆乳・石けんの泡も消し、泡を消す働きがあるとわかりました。この味噌の成分のうち、“エタノール”と“大豆油”を近付けると醤油の泡が消えるのですが、なぜ消えるのかがわかりません。“エタノール“の揮発性が関係していると考えましたが、醤油の泡とどのように反応しているのかがわかりません。“大豆油”については、豆腐を作る過程で、豆乳の泡を消すのに昔は『石灰と油を混ぜた物』を使用していたことと関係があると考えていますが、これもどのように反応しているのかがわかりません。


 醤油以外の泡を調べたり、いろいろな味噌の種類を試したり、深く考え、丁寧に実験されています。味噌の成分を詳しく調べた上でエタノールと大豆油に着目している点など、随分不思議な現象で面白く拝見しました。

 石けんの泡でも赤みそを近づけると消える様なので、石けんを例にして考えてみましょう。
 石けんを細かく砕いていくと、これ以上は細かくならない単位、「石けん分子」と呼ばれる物質になります。石けん分子は、水と混じりやすい「親水性」と呼ばれる部分と水と混じりにくい「疎水性」と呼ばれる部分から構成されています(下記の概略図参照)。
 石けんの「泡」ができている時、泡の内側の空気と泡の外側の空気が、水の膜を隔てて分離された状態で存在しています。この時、泡の内側では疎水性の部分を泡の内側の空気中へ、親水性の部分を水の膜へ向けて並んでいます。同様に、泡の外側では疎水性の部分を泡の外側の空気中へ、親水性の部分を水の膜へ向けて並んでいます。これは、互いに180度異なった方向を向いて、石けん分子が水の膜を間に挟んで向かい合っている様な状態になります。

 水溶液が「泡」の状態で安定に存在するためには、このように石けん分子が水の膜を挟んで、「整然と並んでいる」状態が必要です。そのため、石けん分子の疎水性部分の長さに由来する石けん分子間の相互作用によって、整然と並んでいる状態が安定化されなければなりません。従って疎水性部分が短い場合、整然と並ぶことが困難になるため、泡立ちにくく、できてもすぐに壊れてしまうことになります。

 質問にある「エタノール」は、疎水性部分が非常に短く揮発性も高い分子です。従って、水と混ぜても水本来の泡立ちにあまり変化はありません。一方で、石けんの泡ができているところへエタノールを入れた場合には、入れた部分の泡が消えやすくなります。この現象は、エタノールの混入によって、石けん分子の泡の中の整然とした並びが乱されるために起こります。

 質問にあった赤みそからどの程度エタノールが揮発しているのか不明ですが、一般に揮発性の高い物質は疎水性部分が短いことが多く、混入によって泡を消しているのでしょう。大豆油から何が揮発しているのか不明ですが、揮発した物質の混入によって近付けると泡を消す方向に働いていると考えます。




(KY) 2010/08/23