Q359★NaCl + H2SO4 → NaHSO4 + HCl という不揮発性の酸を用いて加熱し、HClが煙となって出て行くため、ルシャトリエの原理により右向きの反応が進み、目的物のHClが手に入るという反応があります。 このNaHSO4というのがよく理解できません。 たとえば、炭酸であれば、弱い酸なのでH+をあまり放出しないため2段階で電離するというのは納得できるのですが、硫酸は強酸性だから100%電離する、その方が硫酸イオンも安定するからと学びました。 しかし、この化学反応ではHSO4-というイオンとナトリウムイオンとをくっつけています。この背景にある原理を教えてください。 酸のH+の放出しやすさは、pKaで定量的に示されます。pKaは、酸解離定数という平衡定数Ka を負の常用対数で表したものです。pKaが小さいほどその酸は H+ を放出しやすいです。 硫酸は、炭酸と同じように2段階で H+ を放出します。その2段階で異なるpKaを持っています。それぞれの酸解離の式とpKaは以下のようになります。 H2SO4 →H+ + HSO4- pKa < -8 (測定できないぐらい強い) HSO4- →H+ + SO42- pKa = 2 1段階目のpKaはとても小さく、 H2SO4 が強い酸と言われる原因です。一方、2段階目のpKaはそれほど小さくありません。 NaCl と H2SO4 を反応させるとHClが発生します。この HCl の酸解離の式とpKaは、 HCl →H+ + Cl- pKa = -7 となり、HCl のpKaは小さく、HClは強い酸だということがわかります。 これらの3つのpKaを見比べてもらうとわかるように、実は HSO4- は HCl よりも、はるかに H+ を放出しにくい、すなわち弱い酸なのです! よってH+ の放出しやすさは H2SO4 > HCl > HSO4- となりますので、HCl が存在する状態ではHSO4-は、酸解離して H+ と SO42- にはなりません。したがって Na2SO4 ではなく NaHSO4 が生成します。 ちなみに炭酸の酸解離の式とpKaは以下のとおりです。 H2CO3 →H+ + HCO3- pKa = 6 HCO3- →H+ + CO32- pKa = 10 これらは硫酸のpKaよりもはるかに大きく、炭酸が H+ を放出しにくい、硫酸よりも弱い酸であることが分かります。 (MN) 2017/10/05 |