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Q364★参考書の補注欄に「アルカリ金属イオンとNH4+の炭酸塩は水溶性だが、他の炭酸塩は水に難溶」との記載があったのですが、これが意味するは価数や炭酸イオンとの大きさの近似性にかかわらずほとんどの塩が沈殿生成すると読み替えられました。なぜ炭酸塩には、そのような特質が認められるのでしょうか。 参考書の注に 「アルカリ金属イオンとNH4+の炭酸塩は水溶性だが、他の炭酸塩は水に難溶」との記載があるとのことで、なぜ炭酸塩にそのような(アルカリ金属イオンとNH4+以外のほとんどの陽イオンと、その価数やサイズによらず沈殿生成する)特質があるのかとのご質問ですね。 お気付きかもしれませんが、実は昨年度ご質問いただいた件中高生の質問のページQ358への回答の延長線上で理解できる事象であり、炭酸塩に何か特別な性質があるという訳ではいと考えられます。やはり、塩の溶解性では陽イオンと陰イオンの「イオンの価数」と「イオンの半径比」が基本的に重要です。 まず、アルカリ金属イオンとNH4+以外の陽イオンで、炭酸塩が知られているものとなると、多くの場合はイオンの価数が二価(以上)となり、イオン間で引き合うクーロン力が大きくなるため、そもそも一価の陽イオンとの組み合わせよりも沈殿が生成しやすくなります。 ちなみに、一価の陽イオンであっても、Ag+は難溶性の塩Ag2CO3を、Tl+は比較的溶けやすい塩Tl2CO3をそれぞれ生じますが、どちらもアルカリ金属イオンやNH4+との塩と比べれば桁違いに難溶性で、これは陽イオンとなる元素の電気陰性度が大きく(イオン化傾向は小さく)なっているために塩のイオン結合性が下がり、水への溶解性も落ちていると考えることができます。 では、二価(以上)の陽イオン同士の間にもイオン半径の違いはあるはずなのに、なぜ一律に沈殿生成するのか、という疑問について考えますが、炭酸塩の場合には陽イオンの価数が二価以上の状態では、多少のイオン半径比の違いが影響しないほど、強固なイオン結晶が生じる条件に既になっている、というのが実態であると考えられます。 参考書の注では、入試問題でよく出題される塩の溶解性の習得を目的に、炭酸塩(や硫酸塩等)でくくって、その特徴を整理した結果のみを提示されているのでしょう。 「アルカリ金属イオンとNH4+以外の他の炭酸塩は、水に難溶」なことは間違いありませんが、詳しく調べれば、難溶性ではあっても少しは水に溶け、陽イオンの違いが、それぞれの溶けやすさに数値的な差として現れます(データとしては溶解度や溶解度積で比較しますが詳細は割愛します)。中高生の質問のページQ358への回答で難溶性炭酸塩の例として挙げられていた、BeCO3、MgCO3、CaCO3、BaCO3の陽イオンの価数は全て二価ですが、陽イオンの半径はその順番で大きくなり、炭酸陰イオンとのイオン半径比は小さくなってゆき、溶解性も概ねその順番で小さくなっています。 更に詳しい議論をするためには、炭酸イオン内の原子配置が平面三角形のような形をしていることや、各塩の結晶構造でどういう違いがあるか等も考慮に入れる必要があるでしょう。 関連情報ですが、NH4+もTl+もイオン半径はどちらもK+とRb+の間程度です。いずれも一価陽イオンの炭酸塩なので結晶構造の類似性は認められますが、(NH4)2CO3がアルカリ金属イオンの炭酸塩と同じく水溶性なのに対し、Tl2CO3の溶解性は先述のようにずっと低くなっています。 (AO & NN & MI) 2018/05/24, 6/20改定 |