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Q372★酢酸に水酸化ナトリウム水溶液を中和点まで混ぜた時のpHについて教えてください。
酢酸ナトリウム水溶液のpHを求めれば良いというのがうまく理解できません。

中和点では、酢酸イオンが一部加水分解して酢酸に戻る、と説明されますが、酢酸に戻るなら戻った分をさらに中和する必要がありそうで、それでは永遠に中和は完了しないように考えてしまいます。

また中和前後で、微量の水酸化ナトリウム水溶液を加えるだけでpHが大きくジャンプしますが、なぜそうなるのかわかりません。


まず、酢酸の水酸化ナトリウムでの中和を整理してみます。
酢酸を水酸化ナトリウムで中和した場合、酢酸ナトリウムと水が生成します。
CH3CO2H + NaOH → CH3CO2Na + H2O
この場合の中和とは酢酸と水酸化ナトリウムが1:1の等量で混合されたことを意味しており、液性が完全な中性であることではありません。また、中和反応は熱力学的に安定な水が生成するため、上記の反応は中和するまでほぼ不可逆で一方的に反応が進行します。
中和により生成した酢酸ナトリウムは水中で酢酸イオンとナトリウムイオンに解離していますが、酢酸イオンは水よりも塩基性が強い(水素イオンと反応しやすい)ために、ごくわずかですが酢酸イオンが水と反応(加水分解)して酢酸と水酸化物イオンとなり、中和点は弱塩基性となっています。参考書に書かれている、酢酸ナトリウムのpHを求めれば良いというのはこれを指しています。
CH3CO2 + H2O ⇌ C3CO2H + OH
この反応は平衡反応であるために、質問にもあるように永遠に中和が完了しないと思われるかもしれませんが、この場合の中和とは酸(酢酸の水素イオン)と塩基(水酸化ナトリウムの水酸化物イオン)が等量で混合された状態を表し、生成した塩(酢酸ナトリウム)の加水分解を考慮する必要はありません。このことについては、文末の【参考までに】をお読みください。

続いて、中和点前後のpHジャンプについて考えてみます。
まず、溶液のpHはpH=–log[H+]で表され、中和滴定曲線は縦軸をpH、横軸を滴下量(ml)で表します。この場合の横軸は水酸化ナトリウムの滴下量になります。ここで縦軸pHは対数であるために、H+の濃度に対して比例関係とはなっていないことに注意が必要です。
例えばpH1の時H+の濃度は0.1 mol/l、pH2の時H+の濃度は0.01 mol/lですが、pH6の時にはH+の濃度は0.000001(10–6) mol/l、pH7の時H+の濃度は10–7 mol/l、pH8の時H+の濃度は10–8 mol/lとなります。
また、水中の水素イオン濃度と水酸化物イオン濃度との間には25℃で [H+][OH]=10–14が成立しており、水のイオン積といいます。そのためpH6の時にはOHの濃度は10–8 mol/l、pH7の時OHの濃度は10–7 mol/l、pH8の時OHの濃度は10–6 mol/lとなります。このように中性付近では、ごくわずかの水素イオンと水酸化物イオンの濃度変化で急激にpHが変化するように数学的になっています。
そのため、酢酸を中和するために水酸化ナトリウムを滴下した場合には、中和点前後での過剰な水酸化ナトリウムの一滴によりpH6からpH10程度のpHジャンプが起こり、pHと滴下量のグラフを作成することで中和点がわかるため滴定が可能となります。

【参考までに】
酢酸は弱酸で、電離度は小さく(注)、(1)式の平衡は、大きく左に偏っています。
  
一方、酢酸ナトリウムはと言うと、水溶液中でCH3COO-とNa+に分かれて存在しています。CH3COO-が加水分解により酢酸に戻る反応である以下の(2)式の平衡もまた、大きく左に偏っています。
 
なぜでしょうか? (2)式は(1)式を左右逆にしただけのように思えるかもしれませんが、違います。(2)式から(1)式を引くと、水の自己解離の式である(3)式が残ります。
 
この自己解離の平衡はとても大きく左に偏っており、(1)式の逆反応の平衡が持つ右への偏りを大きく上回っています。従って(2)式の加水分解の式は、(1)式の酸解離の式と同様に大きく左に偏ることになります。このように酸が弱酸(今の例では酢酸)であれば、その共役塩基(CH3COO-)は、弱塩基になります。

(注)電離度は、その物質の濃度によっても変化します。
例えば、1.0 mol/Lの酢酸の電離度は、約0.005ですが、非常に希薄な1.0☓10-7mol/Lの酢酸では、ほぼ1となります。電離度は、濃度が酸解離定数を上回ると小さくなり、下回るとほぼ1になります。弱酸だからと言って常に電離度が小さいわけではありません。


高3 (EM & NN & MI) 2018/10/04, 2018/10/19