.

Q374★なぜ、溶解度曲線は曲線になるのですか? なぜ比例の式にならないのですか? 硫酸銅はなぜ溶解熱が正なのに右下がりのグラフにならないのですか? 水和物との関係はありますか? 溶解度曲線が一定の温度で一番高くなる物質は、どうしてそうなるのですか?


全ての物質には「安定な状態になろうとする」という性質があります。また、安定になる過程で、「余分なエネルギー」を熱として外に出したり(発熱反応)、「必要なエネルギー」を熱として外から奪ったりします(吸熱反応)。
固体が水に溶解するのは、固体のままでいるよりも水の中に分子やイオンとしてバラバラになって水分子に囲まれているほうが「安定」であるためです。
固体の水への溶解が吸熱反応(溶解熱が負)の場合、溶けて「安定」になるのに「必要なエネルギー」を熱として外から奪います。温度が上昇すると、ルシャトリエの原理により温度を下げる方向に平衡が移動するため、溶解度も上昇します。大学の熱力学で習いますが、溶解度の温度依存性は、理論的に下に凸の曲線になります。しかし、溶解熱(の絶対値)が小さいNaCl(-4 kJ / mol)やKCl(-17 kJ / mol)の場合には、温度に対する溶解度の変化が小さく、近似的に直線に見えます。逆に溶解熱(の絶対値)が大きいKNO3(-35 kJ / mol)では、明確に下に凸の曲線となります。
一方、固体の水への溶解が発熱反応(溶解熱が正)の場合では、溶けて「安定」になるのに「余分なエネルギー」を熱として外に放出します。こちらもルシャトリエの原理により、今度は低温ほど溶解度が上昇します。つまり、溶解度のグラフは右下がりとなります。さて、質問の硫酸銅ですが、確かに溶解熱は正(+73 kJ / mol)なのに、溶解度のグラフは右上がりであり、一見すると矛盾しています。それには、お気づきのように水和物が関係しています。この正に大きな溶解熱は、実は硫酸銅が無水物の固体であるときの値です。一方、硫酸銅が5水和物の固体になっているときは、溶解熱は負(-11 kJ / mol)なのです。溶解度を調べるときには、水溶液の中に溶け残りの固体が必ずありますよね。水と共存している固体は、硫酸銅の場合には5水和物なのです。従って、溶解度がどのように温度に依存するかは、硫酸銅5水和物の溶解熱で考えなければなりません。溶解熱が負の値を取ることから、硫酸銅の溶解度のグラフは右上がりとなります。
また、質問の「溶解度曲線が一定の温度で一番高くなる物質」の例としてNa2SO4が挙げられます。Na2SO4の溶解度のグラフは32 ℃まで右上がりですが、32 ℃を超えると逆に右下がりとなります。これも、硫酸銅の場合と同じく、どのような水和物の固体が水と共存しているか、で説明することができます。32 ℃以下の低温では、Na2SO4•10H2Oという水和物が固体として水と共存していますが、32 ℃以上の高温ではNa2SO4という無水物の状態で共存しています。これらの水和物と無水物の溶解熱は、それぞれ、負(-79 kJ / mol)および正(+2 kJ / mol)であり、ルシャトリエの原理より、溶解度は32 ℃以下では右上がり、32 ℃以上では右下がりになります。このように固体の状態が変化すると溶解熱も変化するため、ある温度を境に溶解度の温度依存性が変化するという例がいくつかあります。

高1 (JM & NN) 2019/02/22