Q10できるだけ低い温度の、過冷却状態のものを作るには、急激に冷やした方が良いのでしょうか。それとも、ゆっくり冷やした方が良いのでしょうか。


  純物質の液体を冷却して凝固点に達すると、凝固が起こり、結晶が現れるはずです。しかし、現実には、分子やイオンが整列して結晶になるのに時間がかかり、その間に液体のまま温度が凝固点以下になることがあります。このように状態変化の起こるべき温度以下になっても、高温のときの状態を保っている現象を過冷却といいます。この状態は、結晶核ができるまでの過渡的で不安定な状態です。
 具体的に水を考えてみましょう。水を冷やしていくと水温は時間とともに一定の割合で降下しますが、水の凝固点である0℃に達しても凝固(氷が生成する)は始まらずに、温度は下がり続けます。液体の水は、部分的に水素結合を持つ不規則な構造をしているのに対して、氷は水素結合で規則的に配列した結晶構造をもちます。つまり、凝固するためには水分子の配列を規則的にそろえる必要があるのです。しかし、冷却速度が速すぎたり、結晶核ができにくい場合には、凝固速度が冷却速度に追いつかずに、水分子は乱雑な状態のまま温度だけが下がっていき、過冷却とよばれる状態になります。さらに温度が下がると、水分子の熱運動はさらに弱くなるため、不規則だった水分子の構造(並び方)がより規則的になり、やがて微小な氷の結晶(結晶核といいます)が生じます。この核がいったん生成すると、本来凝固すべき温度に達していた水分子は、微小な結晶核めがけていっせいに集まってきて、その周りに規則的に並んで結晶化し、過冷却の状態を脱します。したがって、できるだけ低い温度の、過冷却状態のものを作るには、急激に冷やした方が良いということになります。ただし、「過冷却状態のものを作る」という表現は正確でありません。過冷却状態な「もの」はなく、過冷却とは結晶核ができるまでの過渡的で不安定な状態であり、急激に冷やすことで一時的に低い温度の状態が得られるということです。



(KT) 2002/12/06