Q343★からしやわさびは凍らないのにしょうがはすぐに凍るのですか?

「からし」や「わさび」が凍らないのに、「しょうが」が凍るというのは、なかなか面白いところに気がついたと思います。質問にある「からし」や「わさび」、「しょうが」は生の状態なのか、市販されているチューブ状のものなのかわかりませんが、ここではチューブ状のものを想定してお答えします。
私もそのようなことを初めて聞きましたので、実際に某社の製品を購入して試してみました。すると、確かに家庭用の冷凍庫では「しょうが」のみがカチカチになり、他の2つは多少固くなりましたが、手で簡単に変形させることができました。このことは、「しょうが」に含まれる水は家庭用冷凍庫で凍るのに対し、「わさび」や「からし」に含まれる水は家庭用冷凍庫で凍らないことを示しています。さて、家庭用の冷凍庫は一般的に-18℃くらいに設定されていますので、この温度で凍らないからといって、本当に凍らないとはいえません。そこで、研究室にある-80℃の冷凍庫で試してみたところ、全てカチカチに凍ることがわかりました。つまり、チューブ式の「からし」や「わさび」に含まれる水は「凍らない」のではなく、「しょうが」に含まれる水よりも低温で凍るということになります。
さて、それでは水が凍るとはどういうことでしょうか。水の分子が規則正しく並んだ状態が「水が凍った状態」、つまり氷です。ご存知のように、純粋な水は0度で氷になります。もし水に食塩などの他の物質が溶けていると、水の分子が規則正しく並ぶことが妨げられるので、0℃よりも低い温度で凍ることになります。たとえば食塩の場合、水76.7 gに食塩23.3 gを加えた食塩水では、-21.3℃でようやく凍るので、家庭用の冷凍庫では凍らないか、凍りにくくなります。食塩以外にも、砂糖や他の無機塩なども水の凍る温度を下げる働きをします。
それでは、チューブ式の「からし」や「わさび」、「しょうが」の成分を見てみることにしましょう。文部科学省ホームページの「五訂増補日本食品標準成分表」というサイトの「調味料及び香辛料類」(http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu3/toushin/05031802/002/017.pdf)を見ると、それぞれの成分を知ることができます。それによると
からし・練り(100 g当たり)   水 31.7 g、食塩 7.4 g
わさび・練り(100 g当たり)   水 39.8 g、食塩 6.1 g
しょうが・おろし(100 g当たり)   水 88.2 g、食塩 1.5 g
となります。この値は一般的なもので、各社製品によって異なるとは思いますが、一応の目安になると思います。この値を見ると、「からし」や「わさび」では「しょうが」に比べて食塩の濃度が高いことがわかります。ここには載せていませんが、「からし」や「わさび」には他にも糖類やカリウムなどの塩も結構入っていますので、さらに凍る温度を下げていると考えられます。つまり、「からし」や「わさび」では、塩類や糖類の濃度が高いため、水が凍る温度が下がり、家庭用冷凍庫の温度で完全には凍らなかったと考えられます(一部は凍っていると思われます)。それに対し、「しょうが」ではそれらの濃度が低いので、家庭用の冷凍庫でもほぼ完全に凍ったと考えられます。

(NM) 2011/08/29