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Q367★I)硫酸(H2SO4)や塩酸(HCl)に酸化力がないのに、硝酸(HNO3)に酸化力があるのはなぜなのでしょうか。また、SO3はH2SO4と同じ酸化数(6+)なのに酸化力があるのはなぜでしょうか。
II)濃硝酸と希硝酸の酸化力の違いは何に由来するのでしょうか。


I)  酸化力を評価する重要な指標の一つとして「反応の前後で化合物がどれだけ安定になるか」があります。今回のケースでは各陰イオンは還元されることになりますので、それらの還元反応の際にどれだけ安定化を受けられるかが重要になります。まず、塩化物イオンの場合は、自身が還元され安定な化合物になれないため酸化力がありません。では硫酸イオンと硝酸イオンはどうでしょうか。上記の安定化の度合いを表すために標準電位と呼ばれる値が使われ,この値が正に大きいほど安定化が大きく反応が右に進行しやすいことを示します。下に例を示します。

SO42- + 4H+ + 2e- → SO2 + H2O   E = +0.16 V *1
SO42- + 4H+ + 2e- → H2SO3 + H2O   E = +0.171 V *2
NO3- + 3H+ +2e- → HNO2 + H2O   E = +0.94 V *2
2NO3- + 4H+ + 2e- → N2O4(g) +2H2O   E = +0.803 V *2
NO3- + 4H+ + 3e- → NO + 2H2O   E = +0.957 V *2
NO3- + 2H+ + e- → NO2- + H2O   E = +0.835 V *2
*1 シュライバーアトキンス無機化学(上)第4版,
*2 化学便覧 基礎編II 日本化学会編 改訂3版 より

SO4-の場合は標準電位の値が小さく,NO3-では大きいことがわかります。SO4-は自身が還元され、SO2やH2SO3になれるのですが、その時に大きな安定化は受けられないので酸化力は弱く、NO3-はより安定な窒素化合物になることができるので強い酸化力を持ちます。

つまり塩化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオンはいずれもオクテット則を満たしていますが、塩化物イオンや硫酸イオンは安定で、それらと比較すると硝酸イオンは不安定な化合物ということです。また酸化力は酸化数で決まっているわけではないので、SO3が同じ6+のH2SO4より強い酸化力を持つのも、SO3がH2SO4より不安定な化合物だからと理解できます。ちなみに今回用いた電位データはpH=0の水溶液のものですが、ネルンスト式を使えばいろいろなpHや濃度条件での電位(つまり、反応のしやすさ)を求めることができます。

II) 濃硝酸と希硝酸の違いですが、これは水素イオンの濃度の問題だと思われます。I)では安定化の度合いという観点から説明しましたが、実はそれだけでは化学反応の進行をすべて説明することはできません。安定化が起きる場合でも反応が進行しないケースもある、ということです。このケースでは、水素イオンが酸素にくっつくことでN-Oの結合開裂が促進されるため、水素イオンとNO3-が電離してしまっている希硝酸よりも、水素イオンがくっついた状態で多く存在する濃硝酸では酸化反応が速やかに進行するようです。


(AY & NN) 2018/06/08