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Q368★塩化アンモニウムはなぜ正塩なのでしょうか。水素イオンが配位結合してできたアンモニウムイオンという形ですが、水に入れれば加水分解を起こして水分子からOH-を奪い、残された水分子の水素イオンが原因で間接的に液性を酸性にします。その点が、炭酸水素ナトリウムのように直接的に自らの持つ水素イオンで液性を酸性にするものと違うため、正塩と名付けられたということでしょうか。


塩とは、酸由来の陰イオンと塩基由来の陽イオンからなる化合物を指します。酸と塩基を用いて中和反応させると、塩ができるというわけです。例えば、NaClは、一価の酸HClと一価の塩基NaOHから、

HCl + NaOH → NaCl

のような中和反応で生成した、と、概念的に考えるわけです(実際にどのように生成したかによらず)。

酸もしくは塩基が多価であっても、水素イオンH+と水酸化物イオンOH-の物質量を同じにしてやれば、中和反応により塩ができます。例えば、二価の酸H2CO3を、倍の物質量の一価の塩基NaOHで中和させて、

H2CO3+ 2NaOH → Na2CO3

Na2CO3という塩が生成します。これらのNaClやNa2CO3の例のように、ちょうど中和が完了するように酸と塩基を混ぜ合わせて生成する塩を正塩と呼びます。

さて、では正塩でない塩はどんな塩でしょうか? それは、中和が「不完全な」塩、のことです。
例えば、二価の酸H2CO3と塩基NaOHを1:1で反応させると

H2CO3 + NaOH → NaHCO3

のように、水素イオンが残った塩が生成します。このように、多価の酸に対して、塩基を「不完全に」反応させた塩を、酸性塩と呼びます。

酸性塩の逆の塩基性塩も同じように定義できます。たとえば、
Ca(OH)2 + HCl → CaCl(OH)
で生成するような塩のことです。

さて、問題の塩化アンモニウムNH4Clですが、これも一価の酸HClと一価の塩基NH4OHから生成した、と考えることができるので
正塩です。NH4+は水溶液中で水素イオンH+を放出できるから酸性塩、と考えたくなるのですが、上記の正塩・酸性塩・塩基性塩の定義でいうと、正塩です。塩を水溶液にしたときに、解離や加水分解によりH+やOH-を生成するかどうか、言い方を変えれば、水溶液がどのようなpHになるか、は、正塩・酸性塩・塩基性塩の定義には関係がありませんので、注意が必要です。


(MT & NN & MI) 2018/06/20