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Q385★「ペットボトルの蓋からガソリンは生成できるのか」ということを調べました。「生成できる!(A)」というのと「ガソリンではなく軽油ができる!(B)」というものがありました。それぞれには根拠があり、Aについては生成した液体を燃やし、さらにガスクロマトグラフィーで分析(GC分析)し、C6から10程度(炭素量)の物質が多く生成されていることからガソリンが生成されたとまとめていました。Bについては、液体を燃やすときの引火点の差(ガソリンは-43℃ 軽油は40℃~70℃で液体を7℃まで下げたら、火がつかなかった。)と燃焼熱から軽油だとまとめていました。AとB、どちらが正しいのでしょうか。

■A
家庭にあるプラスチックからガソリンは作れるか!?│ヘルドクターくられの1万円実験室 | リケラボ
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化学を題材とした最近はやりの人気漫画でも取り扱われていた、人間の文明発達に大きく貢献した実験ですね。

まず結論からいうと「どちらもただしい」です。化学でなにより大切なことは、実験をして得られた結果をありのままに受け入れることです。Aの実験は「ガスクロマトグラフィー」という分析手法で炭素数が6から8の炭化水素が主生成物として取れたことを証明しています。一方でBの実験では、粗削りながらも引火点を試験することで、ガソリンではなく軽油であろうということを突き止めていますね。それぞれ、正しいのです。

では、次に大切なことは、このAとBの二つの実験の「違うところ」を見つけることです。

まず、実験の原理ですが、基本的には「ゼオライト」と呼ばれる無機化合物を触媒として、炭化水素でできた樹脂(ポリマー)を高温で加熱して熱分解することで、炭素数が短いものを得るという反応です。(これは一般にクラッキングと呼ばれていて、石油を我々人類が生活に使用できるように変換するために利用されています。)炭化水素の長い鎖を細かくちぎっていくイメージです。この、ちぎるときの細かさに、温度が影響してくるのです。

ペットボトルのふたに使用されている、ポリエチレンというものの分子構造は次のようなものです。

 

黄色い丸が水素原子、緑色の丸が炭素原子をそれぞれ示しています。このように、炭素原子と水素原子からなる分子が炭化水素であり、炭素原子が鎖のように延々とつながっているのが樹脂ですね。この炭素でできた鎖を、短く切断していくというイメージです。

 

Aの実験の説明を読んでみると、「触媒にもよりますが、400℃程度が最適」と書いてありますね。そして、三角フラスコを手で持った写真の下の説明文には「かなりの量がヘキサンより低分子で蒸気圧の高い成分となって逃げてしまった」と書いてあります。ここにある「蒸気圧の高い」というのは、沸点が低いという意味で考えてよいです。ガソリンの沸点は35~180℃です。そしてこの「ヘキサン」というものは、炭素数が6の炭化水素です。「より低分子」の炭化水素は、たとえば「プロパン」などです。プロパンガス、という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか?カセットコンロなどに使用される燃料の一種ですね。プロパンとは、炭素数が3の炭化水素なのですが、炭素数が小さいと、室温では液体ではなく気体になってしまうので、フラスコ内には回収できないのです。ちなみに、プロパンの沸点は–42℃です。

Bの実験では、Aのような沸点の低い成分ではなく、軽油と呼ばれる沸点が240~350℃のものが取れてきたという結果になっていますね。炭化水素の沸点は、炭素鎖が長いほど高くなります(ヘキサンとプロパンの沸点を比べてみるとわかると思います)。Bの実験では、より長い炭素鎖になるようにポリエチレンが切断されたということですね。この、切断されて得られる炭素鎖の長さを決める要因の一つに、温度があります。ガソリンを得るためには、Aの実験の説明にあるように400℃程度が最適なのですが、より長い炭素鎖のものは、もっと高い温度で反応を行うと得ることができます。おそらく、Bの実験では反応温度がAの実験よりも高かったのでしょう。

イメージとしては、適切な温度でじっくり細かく端からちぎっていくか、より厳しい反応条件でおおざっぱにぶつ切りにしていくか、というところです。どちらの実験でも温度は十分に高いので、切れたものからどんどん反応装置から出ていき、回収装置(実験Aでは三角フラスコ)に回収されていきます。長い炭素鎖のまま回収されてしまうと、それ以上炭素鎖が短く切断されないので、じっくり細かくちぎっていったほうが、炭素数がちいさいものが回収できるということなのです。


中1 (MT) 2021/01/27