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Q391★原子が陽イオンになるためには、自身の持つ最外殻電子を放り出すためにイオン化エネルギーが必要だと習いました。その結果、出来上がった陽イオンは元の原子より高エネルギー状態になります。しかし、今の自分の見解では「安定した状態=低エネルギー状態」と考えており、これだと原子自らが不安定な状態になるようなものとしか考えられません。また正の電荷の方が大きくなってしまうと、さらに不安定になってしまっていると感じられます。価電子数が0であることが安定した状態である(≒他原子と反応しない)ということも知っていますが、それを踏まえても、自ら高エネルギー状態になって電気的性質を中性から変えることには納得できません。化学において「安定した状態」とはどのようなものかということと、今自分があやふやな「閉殻が安定な理由」について教えてください。

イオン化エネルギーとは、電気的に中性の原子などから電子を1個取り去るのに必要なエネルギーのことです。中性の原子に対して、イオン化エネルギーに相当するエネルギーを外部から(光などによって)加えることで、原子から電子が1個取り去られて陽イオンと電子に分かれた状態になります。このとき、エネルギーを受け取った分だけ、元の原子(低エネルギー状態)よりも陽イオンと電子に分かれた状態は不安定(高エネルギー状態)である、ということになります。原子が自ら不安定な状態へと向かうのではなく、原子が外部から(光などの)エネルギーを受け取ることによって不安定な状態に変化するわけです。
閉殻が安定である理由について、閉殻構造をもつ希ガス元素(18族元素)が電子を放出する(電子が取り去られる)場合と、電子を受け取る場合で考えてみましょう。まず、周期表の同じ周期の元素のあいだでは右に行くほどイオン化エネルギーは概して大きくなる傾向があり、希ガス元素において最大となって電子が最も放出されにくく(取り去られにくく)なります。これは、周期表で右に行くにしたがって原子核に最外殻電子がより引きつけられるためです。次に、希ガス元素が電子を受け取る場合、電子が満たされている最外殻よりもさらに高エネルギーの外側の殻に電子が入ることになります。例えば、ネオンNeではL殻が電子で満たされている最外殻であり、次に電子を受け取るとするとM殻になり、これはエネルギー的に不利です。原子が1個の電子を受け取って一価の陰イオンになるときに放出されるエネルギーを電子親和力といいますが、希ガス元素をその他の元素と比較すると電子親和力が非常に負に大きい値となっています。したがって、閉殻である希ガス元素は電子を放出しにくく、また受け取りにくいために安定であるといえます。他の原子や分子などと反応する場合にも、それらに電子を与える、あるいはそれらから電子を受け取る、という電子のやり取りを行うことになりますから、閉殻である希ガス元素は他の原子や分子などとも反応しにくく安定、ということになります。


高1 (YU & SK) 2021/05/31