Q227★酢やアルコールは発酵させて作られる(菌を増やして作る)のに、菌を増やさない働き(抗菌効果)があるのはなぜですか?菌が増えてできたものなのに、菌を生えにくくする仕組みが分かりません。 いつから菌の敵になるんですか?どんな仕組みですか? 発酵と代謝物の役割 微生物が酸素を使わずに有機物を分解し、エネルギーを得る代謝のことを「発酵」といいます。例えば、アルコール発酵では、酵母が糖(グルコース)を分解してエネルギーを得る過程で、代謝物としてアルコールを生成します。同様に、酢酸発酵では、酢酸菌がアルコールを代謝し、酢酸(酢)を作ります。 つまり、アルコールや酢は、酵母や菌にとって不要な副産物(残り滓・代謝物)であり、味方を作っているわけではありません。 アルコールと酢の殺菌作用 アルコールや酢には殺菌作用がありますが、その仕組みは異なります。 アルコールの作用 アルコールは一部のタンパク質を変性・凝集させ、タンパク質の合成を抑制(翻訳活性の低下)することで、細胞増殖を阻害します。[1] 酢(酢酸)の作用 酢酸が細胞内に入ると環境が酸性になり、それを排出するために大量のエネルギーが消費されます。結果的に、エネルギー不足で細胞が死滅します。[2] これらの殺菌作用は、発酵を行う酵母や酢酸菌自身にもダメージを与えます。高濃度のアルコールや酢酸に晒されると、これらの菌も影響を受けます。 しかし、酵母や酢酸菌にはそれぞれ耐性を持つ仕組みがあります。 酵母は、アルコールによる損傷を修復する機能を持っています。[3] 酢酸菌は、細胞内への酢酸流入を防ぐ・効率的に代謝するなどの防御機構によって耐性を獲得しています。[4] 殺菌効果の確認方法 酵母や菌の増殖が抑制されるかどうかを確認する実験が有用ですが、具体的な方法の説明は専門的で難しくなります。 -------------------------------------------------------------- 参考文献: [1] 吉田 雅偲, 井沢 真吾 : 日本醸造協会誌, 117 (6), 378-383 (2022) 「エタノールによるタンパク質変性と 醸造過程の酵母のプロテオスタシス」 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan/117/6/117_378/_pdf/-char/ja [2] 指原 信廣 : 日本食品微生物学会雑誌, 26 (2), 81-85 (2009) シンポジウム:ストレス環境における微生物とその制御 「酸性条件下で受けるストレス・損傷に対する細菌の挙動とその制御」 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsfm/26/2/26_2_81/_article/-char/ja/ [3] 大学共同利用機関法人自然科学研究機構基礎生物学研究所 プレスリリース 2023.11.24 “酵母のエタノール耐性のカギとなるメカニズムを解明 ―長年の謎の解明に大きな手がかり―” https://www.nibb.ac.jp/press/2023/11/24.html [4] 惠美須屋 廣昭, Japanese Journal of Lactic Acid Bacteria, 26 (2), 118-123(2015) 総説「酢酸菌の酢酸耐性機構について」 https://www.jstage.jst.go.jp/article/jslab/26/2/26_118/_pdf 小5 (MK) 2025/02/19 |
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