Q353★なぜスライムは伸びるのですか。


 ポリビニルアルコールとほう砂の水溶液からつくるスライムの化学構造については、もう知っていますね。まず、四ホウ酸イオンとポリビニルアルコールとが「水素結合」という力で結びつき、長いひものような分子であるポリビニルアルコールが、ところどころ橋かけされて、網目構造になります。この網目の間に、たくさんの水分子が閉じ込められているのが、スライムに見られるような「ゲル」という状態でした。必要でしたら、中・高生の質問コーナー Q54を参考にしてください。

 さて、「なぜスライムは伸びるのか?」という質問ですが、実は、科学的にはとても高度な問題です(高分子のレオロジーという専門的な研究分野があるほどです)。そもそも、物質が、「伸びる」、「伸びたり縮んだりする」、あるいは、「伸びてちぎれる」という現象を、分子のレベルでどのように考えるのか?ということになります。
 今回、質問された「伸びる」という現象は、「ゆっくりと比較的弱い力を加えることで変形する」という風に具体的に表現し直すことができると思います。
 ポリビニルアルコールからつくられるスライムは、その網目構造の中に、たくさんの水分子を含んでいますが、四ホウ酸イオンによる橋かけがなければ、ポリビニルアルコールの水溶液、つまり、液状になります。液体は、特に外から力をかけなくても、どんな形にもなりますよね。スライムは、このように自由に変形するたくさんの水分子の集まりを、網目構造といういくつもの部屋に閉じ込めたものであるとイメージすればわかりやすいのではないでしょうか?
 網目構造そのものも、ところどころ橋かけられたポリビルアルコールの長い分子が絡まったものですから、例えば、外から両端を引っ張るような力がかかると、絡まりがあるので、ある程度元に戻ろうとする抵抗はありますが、折りたたまれたようになっていたポリビニルアルコールの分子が力のかかった方向に沿うように真っ直ぐになっていき、網目構造の部屋の形が細長く変形します(図)。しかし、橋かけがあるので、ポリビニルアルコールの分子がバラバラになることはありません。また、閉じ込められている水分子と水分子の間、さらに、水分子とポリビニルアルコールの水酸基(-OH基)との間にも、橋かけ部分よりは弱いですが、「水素結合」による結びつきがあり、網目構造の部屋を保つのに一役買っています。そのため、液体のように流れるようなことはなく、力のかかった方向に変形することになるのです。


図 ポリビニルアルコールとほう砂の水溶液からつくるスライムの化学構造と両端に引っ張る力がかかったときの変形のイメージ

(MI) 2015/05/28