Q362★硫酸と硫酸アンモニウム塩が溶けている混合液に水酸化ナトリウムをたくさん入れると、硫酸との中和反応が優先されると習いました。しかし、同じ溶液中にある硫酸アンモニウムの弱塩基遊離反応はなぜ同時に起こらないのでしょうか。

考えられる仮説として、硫酸由来の水素イオンが大量にあるので、それを消費すべくアンモニウムイオンが自分の水素をNaOH由来のOH-に渡せない。むしろアンモニアの非共有電子対に硫酸由来の水素イオンがどんどん配位結合していく方向に平衡が進むため、見かけ上は、硫酸アンモニウム塩に変化なしに見える。 そのため、「まず先に硫酸との中和反応が優先される」と考えてよいのでしょうか。
そうだとすると、遊離反応のメカニズムはどのようになりますか。 配位結合したアンモニウムイオンも正に帯電していて、外部からたくさん入れられたOH-を消費しようとする方向に平衡が進むとも考えられます。


硫酸アンモニウムは硫酸のアンモニウム塩で、化学式は(NH4)2SO4で表されます。水に溶かすと2つのアンモニウムイオンNH4+と1つの硫酸イオンSO42-に解離します。
一方、硫酸の化学式はH2SO4で表され、2つの水素イオンH+と1つのSO42-に解離します。
(pH < 2であれば硫酸水素イオンHSO4-も考えなければなりませんが、今は無視しましょう。以下の議論に影響しません)

H2SO4のみを溶解させた水溶液に水酸化ナトリウム(NaOH)を加えると、NaOH由来の水酸化物イオンOH-とH2SO4由来のH+との間で中和反応が起こります。これは簡単ですね。

では、 H2SO4と(NH4)2SO4の両方を溶解させた水溶液の場合は、どうでしょうか。
NH4+はH+を放出してOH-と反応することができます。これが弱塩基遊離反応ですね。しかしNH4+がH+を放出する性質は弱く、溶液のpHがNH4+のpKa(9.25)あたりまで上がらないと反応は起こりません。この水溶液はH2SO4由来のH+により酸性になっているので、OH-がNH4+と反応することはほとんどなく、H+との中和反応が優先します。NaOHをどんどん加えていって、H+が枯渇していき、溶液が弱塩基性にまでなると、NH4+との弱塩基遊離反応が始まります。

ある酸がH+を放出しやいかどうかは、定性的には、強い酸、弱い酸という言葉で表現されます。定量的にはpKaという尺度があります。NH4+はかなり弱い酸であり、pKaは大きいです。pKaついては中高生の質問のページQ359の回答が大変参考になりますので読んでみてください。

 
(EM & NN) 2018/05/18